いつもよりオシャレした母が、なんだかちょっぴり肩を落として帰ってきて、
そして、ぼそっとつぶやいた言葉を今でも覚えている。 「手帖はやっぱり引っ張り出しちゃダメよね」 幼い私は何のことだか分からず、「何それ?」と聞くと 遠くを見ていた母がゆっくり私に視線を落とし、そして柔らかな笑顔で、 「大人になったら、舞踏会の手帖っていう映画を見なさい」と言った。 モノクロの1930年代のフランス映画。 その物語は主人公の女性が、昔、社交界でダンスした相手の元を巡るというお話。 手帖に書かれていた名前を一人一人訪ねると、 すべての男性が、華やかな10代の頃とはまったく違う人生を生きている。 母が亡くなってから見たこの映画はあまりにも切なくて、 モノクロの映像がより影を濃くするようで・・・ ちょっとトラウマのように私の記憶に残っていた。 そんな映画をここ最近、思い出していた。 私にとっての舞踏会の手帖。 勇気がない私は、いつかまた 自然に話し、笑いあえることを 静かに願うことしかできないでいたりする。 #
by nagasakakumi
| 2020-06-30 20:49
| Feeling
こんな状況は誰が想像しえただろう。
ネットでは、夢診断アプリで悪夢を検索する人が増えていたり、 自然の動画や画像の検索件数も多いんだそう。 虚無感や喪失感が渦巻く中、 私は、一人海の家に暮らしている。 夜、耳に入ってくるのは、ただ波の音だけで 人は寂しくないかと聞いてくるけれど、 反対に自然に抱かれる思いで眠りにつく。 ネット環境もそんなには良くないけれど、 動画を見るより、本を読めば良くて、 まあ、好きな映画が見られないのは寂しいけれど、 まったく見られないというわけでもないし。 今回のコロナ禍で価値観や人生観が変わる人も多いと思う。 実際に、私自身も少しずつ変わっているのを感じているし。 この混乱を抜けた後に、どんな景色が見えるのか、 そこに向かって、何事もゆっくり考え直してみるのもいいのかもしれない。 ちなみに、最近学んだことは、 春わかめのレシピと とれたてひじきの美味しさ、 そして 海辺でとんびに襲われないコツ。 海辺で何かを食べる際には、壁を背にすること。 後ろに壁さえあれば、オニギリを食べても マフィンを頬張ろうが、奴らは奪いに来られないんだそうだ。 ・・・久々の投稿で何書いてんだ、私? ま、書くことのリハビリということで。
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by nagasakakumi
| 2020-05-04 23:13
| Feeling
2001年、同時多発テロ事件が起きた9月11日。 あの日、私はテレビラジオの番組の取材で遠方に車で出ていた。 一日中運転して、日も暮れて夜もいい時間になった頃、ラジオからNYの様子が伝えられた。 最初は何が起こっているのか理解できず、 誰もがただ、その放送の言葉を一つ一つ理解しようと必死だった。 そして、映像を目にし、呆然とした。 そんな日から17年。 時は流れ、あの時一緒にいた後輩は地元に帰り、 演者の女性はすっかり一児の母として、暮らしている。 私といえば、相変わらず同じような仕事をしているけれど、 昨日、海外のニュースを訳していて、涙が止まらなくなった。 それは、NYの検視官たちの活動を追ったもので、 いまなお、NY市では、身元の特定をするため、日々、DNA検査を行い、 2万以上の遺体の破片と向かっているという。 科学も進歩し、17年前では分からなかったものも解明できるような時代。 その成果として、この7月にも1人の男性の身元が特定された。 26歳、金融関係で働いていたという男性。 やっとのことで家族の元に遺体の破片が戻ったのだが、 その妻はこんな風に語っていた。 「確認されたことで一つ、区切りがついたのかもしれない。 でも、私はいつか、彼が、「記憶喪失になってたんだ」と言って家に帰ってくる日を待っていた」 彼女が見続けていた夢、 覚めないでほしいと願う気持ちと、 やっと家に帰ってこれたね、と思う気持ち。 17年の月日が過ぎても まだ身元不明者は1000人を超える。 その人たちの家族の夢はいまだ醒めていない。 #
by nagasakakumi
| 2018-09-12 23:09
| Feeling
入って少し行くと小さな階段。
まっすぐ進めば美術書、くるっと振り返ってまた小さな階段を上がれば なかなか出会えないような世界の音楽、そしてデザイン・・・
この場所は私にとってサンクチュアリだった。 親と喧嘩して家を飛び出した夜も、 大好きな人との偶然の再会を期待した夕暮れも そして、大切な人を失って、記憶も覇気も失っていた時も、 真夜中にここに逃げ込んで、自分の好きなものに囲まれると、 ゆっくりと冷たくなった心がほどけていくようだった。 私にとってそんな場所だった青山ブックセンターが閉店する。 記憶の扉をこじ開けるようで、足が遠のいていた場所に久々に訪れてみると そこにはなんとも懐かしい空気が漂っていて、 書棚をめぐる度に、その場所での様々な思い出が蘇ってきた。 「洋書セール70%OFF」 店中に貼られたそんな文字が、いよいよこの店が本当になくなってしまうことを告げている。 私は、この愛おしい店への餞別のように、 何か欲しい本はないかと探し回り、そして、美しい庭が描かれた一冊の本を手にした。 「Creating Home」 結局、私はいつも自分の帰る場所を探しているのかもしれない。 #
by nagasakakumi
| 2018-06-24 14:22
| Feeling
ブログにツイッターにFacebookにインスタに
仕事柄、それぞれアカウントは持っているものの あまり投稿していない。 孤独だからこそ、繋がっていたくてSNSをやるというけれど、 とことん孤独になってみたら 案外そんなものいらない、って思うかもしれない。 〇〇さんは寂しがり屋だから・・・ 私の周りでそんなフレーズをよく聞く。 寂しいからSNSをやっていたら・・・ なんだかもっと寂しくなりそうな気もしてくる。 村上春樹は今年もノーベル賞を取らなかったけれど、 それはそれで、ほっとする気がして、 やっぱり村上春樹は賞なんか取らないでいてほしいという 勝手な気持ちがあったりする。 自己完結型の孤独な文が、 なんだか孤独でなくなってしまうような気がするから。 孤独の美を貫いてほしい、 そう思うのだと思う。 そして、孤独を抱える者たちがひっそりと寄り添える そんな本が勝手に存在していて欲しいと 夜中にふと本棚を見ながら思ったりする #
by nagasakakumi
| 2017-10-17 02:05
| Feeling
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